冬眠人脈 Interview
Interview 01 株式会社 セールスフォース・ドットコム
お話を伺った方
株式会社セールスフォース・ドットコム
常務執行役員 エンタープライズ
営業第四営業本部長
荒谷英智 氏

企業の働き方改革は
「冬眠人脈」の掘り起こしが
カギを握る

社内に眠っている人脈の有効活用で生産性は2.6倍アップ

高齢化、少子化による労働人口の減少が見込まれることを背景に、政府の主導する「働き方改革」による生産性向上を目指す取り組みが、すでに多くの企業で始まっている。ところが、これまでのところ必ずしもそうした取り組みが期待通りの成果を上げているとは限らないようだ。

働き方改革を成功に導くには何が必要なのだろうか。働き方改革と、その先の「働きがい」に着目した経営を実践していることでも知られる、CRMソリューションのセールスフォース・ドットコム 常務執行役員の荒谷英智氏に話を伺った。同氏によると、働き方改革の成功の鍵は「オープン」なコミュニケーションを軸にした人脈の発掘だという。すなわち、社内で共有、活用されていない人脈の掘り起こし、「冬眠人脈」の活用だ。

セールスフォースが推進する
「コネクト・ザ・ドット」という
考え方

「冬眠人脈」とは、社員個人としてはつながりをもちながら、そのつながりを他の社員や会社内で共有、活用されず眠っている人脈のこと。通常の営業活動を通じて知り合ったり、もしくはプライベートな関係や、前職における先輩・後輩などのつながりですでに知り合いだったりしても、自分自身の業務には直接関係しないせいでビジネスに活かせない、といったことは少なくない。他の社員と共有する機会もなく、何のアクションも取らず眠ったままになっている人脈は、どんな人にもきっとあるはずだ。

Sansanのアンケートでも、ビジネスにおいて「人脈は重要だと考えている」人は98.2%と、ほとんどの人が人脈の有用性を感じている。にもかかわらず、「出会ったまま仕事につながっていない」は86.7%、もしくは「人脈が個人に依存している」も81.6%と高い割合を示し、冬眠人脈の活用が進んでいない実態がうかがえる。

クラウド型顧客関係管理ソリューション(CRM)をクライアント企業に提案していく荒谷氏のエンタープライズ営業という部署は、BtoBビジネスということもあり、とりわけそのような人脈の有無がソリューション提案までのステップ数や導入の可否判断に大きく影響する。信頼関係を築けている人のつながりでビジネスを進めることについては拒否感が少なく、互いに対する理解も早いと思われるからだ。

実際、同部署でも「コネクト・ザ・ドット」という考え方が定着している。例えばA社とB社の両方に営業したとき、A社の人とはすでに知り合いで、B社の人とは初対面だったとしても、A社の人とB社の人同士は知り合いだった、というケースはありうる。こうした「点と点を結んで案件を円滑につなげること」をコネクト・ザ・ドットと呼んでおり、これを成功に導く最も重要なポイントが人脈の活用だと荒谷氏は語る。

このとき考えられるのは、A社にB社を紹介してもらう、というシンプルなパターンだけではない。A社とB社が異業種の会社だったとすれば、「これを弊社が橋渡しする」(荒谷氏)ことで新しいビジネスを生み出す可能性もある。さらにそれを発展させ、「弊社の人脈を活用しながら、それとはまったく別のお客様とお客様を橋渡しして新しいビジネスを作っていく」ことも始めているという。
また、その上で「私たちが橋渡しをさせていただいたお客様が、円滑に人脈を共有し、それらを効率的に活用するためにも、Sansanのような人脈共有ツールはとても有効です」という。

社員同士オープンで「オハナ」な関係ができあがっている

ただし、「コネクト・ザ・ドット」のような効率的な営業活動を実現するには、社員個人が抱える人脈を全社的に活用できるようにする工夫や仕組みが必要だ。Sansanの調べでも、冬眠人脈を活用するための何らかのツールを利用している場合、「顧客に対して効果的に営業ができている」と考えている人は65.8%に達する。ツールの有効活用はどんな企業にとっても大きな課題ではあるが、セールスフォース・ドットコムでは具体的にどうしているのだろうか。

荒谷氏によれば、交換した名刺はもちろんのこと、ソーシャルツールをはじめとする「あらゆるチャネルを駆使して」人脈を発掘しているほか、同社独自の社内SNS「Chatter」も大きく貢献していると明かす。全社員が「プロフィールを記入するところがあり、そこに自身のキャリアも書けるようになっている。営業しようとしている相手と同じ出身の社員が見つかったら、オープンな状態で気軽にメッセージを送ってコミュニケーションできる」そうだ。

このとき、「オープン」であることが一番のポイントだと同氏は述べる。Chatterではメッセージを直接交換している当事者間だけでなく、他の社員もそのやりとりを見ることが可能で、「それなら自分が知っている」というように名乗り出たり、アドバイスし合ったりすることもある。社員の誰がどんなクライアントの人と会っているかも把握でき、会社の方針として「人脈を冬眠させない方向に動いている」という。

荒谷氏は日本法人ローンチ初期からのメンバー

そのような動きを可能にしているのは、テクノロジーやツールだけではない。1999年創業時からの企業理念やカルチャー自体が人脈の冬眠を防いでいるところもある。例えば同社の企業理念の1つである「信頼」のなかでは「透明性」というキーワードが掲げられ、「正直であること、社員同士イコールに向き合おうというカルチャーがある」と同氏。肩書きによる上下関係も縦割り構造もない、上下左右にフラットな組織、それがセールスフォース・ドットコムという企業であり、近年はハワイ語で「家族」を意味する「オハナ」が社内での合言葉になっているという。

「みんなが情報を公開し、共有していて、困ったら助け合う。平社員でもマネジメント層が情報交換している内容を見られるし、社長に気軽に相談して知り合いを紹介してもらうこともある。米国本社CEOのマーク(・ベニオフ)が年度始めに目標として打ち出す内容も全員が見ることができる」というように、限りなくオープンな社風のおかげで、人脈を冬眠させず、あるいは冬眠人脈があっても容易に掘り起こしが可能になっているのだ。

「働き方改革」を成功に導く、ツールともう1つ大事なもの

Sansanのアンケートによって、人脈を活用するためのツールを使っている人とそうでない人との間では、実際に人脈を共有する回数に2倍近くもの開きがあることがわかっている。さらに、1カ月間の平均アポイント数、受注率、受注単価についても、ツールを活用している人の方が確実に上回っており、アポイントから受注までのリードタイムが短いことも示している。総合的に、冬眠人脈を活用することで社員の生産性はおよそ2.6倍向上する、という結論が導き出されてもいる。

冬眠人脈の活用は、確かに生産性を高める結果につながるだろう。荒谷氏も、「冬眠人脈を見つけるために、情報共有がこれからの時代はより重要になってくる」と指摘する。しかしながら、セールスフォース・ドットコムの例を見るとわかる通り、もう1つ大事なものがありそうだ。我々が「いい会社ですね」と感想を漏らしたとき、荒谷氏は「私たちもそう思っている。ここまでオープンで、トランスペアレントな会社はない」と言い切ったように、ツールをうまく活用できる体制が社内に整っているかどうか。それも働き方改革を成功させるのに大きな鍵を握っていることは間違いない。

平均120億円!
あなたの会社の「冬眠人脈」による
機会損失は、◯◯円!?
他の記事もあわせて読む