今向き合うべき、企業活動における人権リスクへの対処法とは
~ 具体的なヒヤリ・ハット事例をもとに人権リスクへの対応策を徹底解説 ~

イベントレポート

2021年8月24日、人権に関するリスクマネジメントのセミナーがオンラインで開催されました。

最近注目を浴びているのが企業経営における人権リスクの問題です。企業が人権に関する問題を起こすと、世界中のNGOや市民団体、投資家、消費者などの信頼を失い、大きな損害を被りかねません。たとえ自社が直接関わっていなくても、取引先が人権侵害を行っている場合、そこに加担していると見なされる危険性があります。また、世界的にも法令に基づいた人権リスク対策の取り組みが広がりつつあります。

こうした中、どうすれば人権に関するリスクを検知し、適切に対処することができるのでしょうか?そこで本セミナーでは、企業経営における人権リスクマネジメントに知見の深い湊信明弁護士をお招きし、社内にどのような体制を整備し、どのように情報を取得すべきかについて、お話しいただきました。

また、リスクインテリジェンス・データベース「World-Check」を提供するリフィニティブ・ジャパン株式会社、「反社チェックオプション」を提供するSansan株式会社が、具体的なサービスについて解説しました。

ぜひ貴社のリスクマネジメント体制を見直し、最適化するためにお役立てください。

今向き合うべき、企業活動における人権リスクへの対処法とは
湊総合法律事務所 所長弁護士

多くの日本企業では、リスクに十分対応できる体制が整備されていない

湊氏は最初に2013年に発生したバングラデシュ・ラナプラザ事件を取り上げました。この事件で海外展開を行うファッションブランドが安価な労働力を求めて製造を委託し、劣悪な環境下で働かせることで多大な利益を上げていることが明らかになりました。そのブランドは世界中のNGO、市民団体から批判を受け、ブランドイメージは地に落ちました。そして昨今も、強制労働の問題は国際的に注目されています。こうした問題を起こす企業は国際社会、投資家、消費者からの信用を失い、大打撃を被りかねない状況となっています。

その背景に国連で採択されたPRI(責任投資原則)、「ビジネスと人権に関する指導原則」、SDGsがあると解説します。

弱者の犠牲のもとに、強者が利益と恩恵を得ることは、持続可能性がなくもはや許されません。先述の原則に違反すれば投資や融資が受けられなくなる、取引先から除外される、NGOや市民団体から批判を受ける、一般市民や消費者からの信用を失うなど、甚大なレピュテーションリスクにさらされることになります。今後こうした問題は日本でも多発することが予想されます。

では企業はこうしたリスクにどのように対処すればいいのでしょうか? 「ビジネスと人権に関する指導原則」では企業に国際人権尊重義務を負わせ、人権尊重を企業方針として宣言することを求めています。その上で人権デュー・ディリジェンス・プロセスの実行を求めています。

人権デュー・ディリジェンス・プロセスとは「人権の負の影響を特定し、評価する」「影響評価の結論を関連する全社内部門及びプロセスに組み入れ、適切な措置をとる」「負の影響が対処されているか検証するため、追跡評価する」「人権デュー・ディリジェンス・プロセスを公表する」こと。こうしたことをきちんと行えば、企業経営において人権侵害を起こすリスクは極小化できると湊氏は話します。

しかし、多くの日本企業では十分に対応できる体制が構築されておらず、いつリスクが発現してもおかしくない状況だと指摘します。湊氏は対策として、法務部やCSR室に任せきるのではなく、営業部や人事部などの現場で人権リスクを早期に発見し対処できるシステムを構築すること、担当取締役、営業部・人事部、法務部・CSR室が連携し、情報の共有と教育を徹底することを提案しました。

また、自社のバリューチェーンにおける人権リスクを詳細に分析する重要性を解説。例えば製造業であれば商品企画から、調達、生産、物流、販売、製品使用、製品破棄に至るまで、それぞれの場面に関わるステークホルダーへの影響を分析し、対処する必要があることを強調します。

「日本では上場企業でも人権対応がまだまだ十分とは言えません。しっかりと対応ができる体制を整えることは、より高い企業価値を実現することにつながるでしょう」と語りました。

人権問題・現代奴隷問題におけるリフィニティブの取り組み
リフィニティブ・ジャパン株式会社 ソリューション営業部 石川 拓也氏

リスクマネジメントに貢献する信頼性の高いデータを提供

石川氏はリフィニティブが世界有数の金融データプロバイダーとして世界約190カ国で4万社を越える企業・機関にサービスを提供していること、Customer & Third Party Risk Solutions 部門ではリスクインテリジェンス・データベース「World-Check」の他、コンプライアンス・デュー・ディリジェンス調査レポートを提供していることを紹介しました。

Sansanの「反社チェックオプション」と連携するWorld-Checkは、マネーロンダリング・制裁リスト・贈収賄・コンプライアンスリスクに関連する国内外の企業・組織・人物などの情報を収集したプロファイルデータベースで、2021年6月時点で収録プロファイルは約515万件に上ります。

World-Checkが対象とする犯罪は人身売買や奴隷労働など人権に関わるものも含んでおり、告訴・告発・逮捕されたエンティティ・個人情報を国内外の10万以上のメディアから収集。最新の情報を提供することで、サプライチェーンに潜むリスクのチェックやモニタリングまでも可能にします。

現在、人権問題・現代奴隷の被害者は世界で4000万人に上ると言われています。リフィニティブはグローバル規模で問題に取り組むため、世界各国のさまざまなNGOや政府団体などと連携しています。石川氏は現代奴隷の撲滅を目指すNGO「Freedom Seal」との連携や欧州刑事警察機構、世界経済フォーラムと協力して立ち上げた金融犯罪撲滅のための団体「GLOBAL COALITION TO FIGHT FINANCIAL CRIME」による官民連携の促進などの取り組みを解説しました。

次にWorld-Checkのデータから見える人権リスクを取り上げ、人身売買の主な行き先の一つとしてアメリカが挙げられることを指摘。日本企業がビジネスを行っている国においても人権に関するリスクが存在し、特にサプライチェーンに潜むリスクについて警鐘を鳴らしました。

石川氏は「英国の『現代奴隷法』をはじめ国際社会で人権リスク対応を求める法令が広がりつつあり、今後リスクへのより具体的なアクションをとる企業が増えていくでしょう。その際、外部機関、NGOとの連携を通じて蓄積したリフィニティブの知見をリスクマネジメントに活用していただければと思います」と締めくくりました。

名刺をスキャンするだけで、取引リスクを早期検知
リスクの早期検知を実現するツール反社チェックオプションpowered by Refinitiv/KYCC
Sansan株式会社 Sansan Unit Product Marketingグループ 酒井 悠作

早期リスク検知、業務負担の軽減、組織のガバナンス強化が実現

酒井は湊氏が講演で取り上げた「ビジネスと人権に関する指導原則」への対応を行う際の課題を解説しました。人権に関するリスクは継続的に行う必要があること、人権への影響評価で得た調査結果を全社的に関連する職務部門及び手続に組み込み、適切な措置をとるべきことを指摘し、そのためには膨大な作業工数と業務コストがかかると話します。

一般的にリスクチェックは契約直前に行われることが多く、直前での取引不可が判明するリスクや、チェック担当者の集中的な工数発生につながっています。また、法務部門などのチェック担当者のみの属人的判断で取引可否が判断されることが少なくありません。

Sansanの「反社オプション」を活用すれば、名刺をスキャンするだけで早期でのリスク検知ができるため、商談機会の先延ばしや取引停止、取引後のリスクを予防・軽減することが可能となり、法務部門のみに依存しないリスクチェック体制を構築できます。コロナ禍によって名刺交換の頻度が落ちている現状においても、Sansanのオンライン名刺機能を活用すれば、交換した瞬間にチェックが行われるので安心です。

名刺がスキャンされデータ化されると、取引リスクの可能性がある「企業」と「企業代表者」のデータを網羅するリフィニティブとKYCCのデータベースと突合。リスクデータベースの検索にヒットした場合、リスクチェック担当者に通知されます。担当者は「取引先リスク評価」画面で内容を閲覧、「要評価一覧」から評価対象企業の情報を確認。取引可否の判断を下し、その理由を記載します。過去にリスクが発見されなかった名刺に対しても、定期的に最新のデータベースをもとに一括チェックし、リスクを検出する新機能を搭載しています。

「反社チェックオプションはSansanの正確で最新のデータ基盤により、早期リスク検知、リスクチェック業務負荷の軽減、組織のガバナンス強化を実現します。現在、経団連をはじめ約800の企業・団体に導入いただいております。今後もリスクチェック体制の整備を全力でサポートさせていただきます」と酒井は話しました。

質疑応答

参加者から寄せられた質問に、登壇者が回答しました。

Q1 : 講演の中で今後日本国内においてもビジネスと人権に関する問題が多発するだろうと指摘されていました。日本が抱えている問題で海外から批判されているものがあれば具体的に教えてください。

湊氏 技能実習生問題だと思います。コロナ禍前、日本には約41万人の技能実習生がおり、現在も相当数残っています。約9,500の事業場を調査したところ、その72%に違法事例が発見されました。残業の時給が300円、手取り月収が3~4万円、労働法上の権利主張や恋愛・妊娠の禁止、逃亡防止のためにパスポートを取り上げるなどありとあらゆる人権侵害が行われていました。自分の会社は技能実習生を使っていないから関係ないと思われるかもしれませんが、技能実習生に人権侵害を行っている会社から材料や原料を仕入れるなどの取引があれば人権侵害に加担している会社と評価されてしまうので注意が必要です。また、海外企業からすれば日本企業を自社のバリューチェーンに組み入れようとしたとき、人権侵害を行っていることが判明すると、今後日本企業との取引そのものを排斥しようとする動きが出てくる可能性もあります。この技能実習生問題はできるだけ早く解決されなければならないと考えています。

Q2 : 人権問題についてどのように対応すればいいかわからない。Sansanの反社チェックオプションを利用するだけで、十分対応できるのでしょうか?

石川氏 Sansanの反社チェックオプションに連携しているリフィニティブのデータは世界各国のさまざまなNGOや政府団体から得られた信頼性の高いものです。そのため反社チェックオプションはファーストアクションとしては非常に利便性と実用性が高いと考えています。反社チェックオプションの結果を踏まえて、その先のデュー・ディリジェンスなどへの対応をご検討いただくのがいいと思います。

湊氏 反社チェックオプションは極めて効果的だと感じています。「ビジネスと人権に関する指導原則」19に「影響評価の結論を関連する全社内部門及びプロセスに組み入れ、適切な措置をとる」とあります。自社内ですべての反社チェックを行うことは事実上不可能であり、どうしても契約直前の属人的判断になってしまいがちです。反社チェックオプションは膨大なデータの中から早期にスクリーニングを行うことができるため指導原則19の実現に結びつき、非常に効果的だと思います。

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