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売上予測とは?計算方法から精度向上のポイントまで徹底解説
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企業経営において売上予測は重要な指標です。適切な予測を立てることで、経営判断の精度が向上し、リソースの最適な配分が可能になります。
本記事では、売上予測の基礎から具体的な計算方法、さらには精度を高めるポイントまでを詳しく解説します。
営業現場に定着する
売上予測とは
売上予測とは、将来の一定期間における企業の売上高をあらかじめ見積もる活動です。経営の羅針盤とも呼ばれ、企業の準備態勢を整えるために欠かせません。
売上目標が「達成すべき理想的な数値」であるのに対し、売上予測は「現状から見込まれる実現可能性の高い数値」という、より客観的な性質を持ちます。
通常、市場環境や過去のデータ、商談状況などを考慮して行われ、経営戦略の根幹を形成するため、非常に重要な取り組みと言えるでしょう。
ここでは、売上予測の基本的な考え方と企業における位置づけについて解説します。
売上予測と売上目標の違い
売上予測と売上目標は混同されがちですが、その本質と役割は大きく異なります。
項目 | 売上予測 | 売上目標 |
---|---|---|
性質 | 「現状の延長線上で実現する可能性が高い売上数値」を客観的に算出 | 「企業として達成すべき理想的な売上水準」を示す戦略的な意思決定 |
例 | 市場環境や自社の営業状況から分析した前年比105% | 成長戦略として設定した前年比110% |
予測と目標の乖離は課題としてではなく、改善の起点と捉えることが重要です。両者のギャップを把握することで、必要な追加施策や課題を明確にできるからです。
営業現場では、予測は客観的な根拠に基づく「見込み」として扱い、目標は全員で達成を目指す「指標」として位置づけることで、予実管理の精度が高まります。
売上予測が企業経営に与える影響
適切な売上予測は企業経営のさまざまな側面に好影響を与えます。中でも重要なのは、経営資源の最適配分です。人員計画、設備投資、在庫管理などの意思決定は、売上予測をもとに行われます。
予測が実態と大きく乖離すると、過剰な在庫を抱えるリスクや、逆に機会損失を招く可能性があります。
また、資金計画の面では、売上予測に基づいて将来のキャッシュフローを見通すことで、安定した資金繰りを実現できます。
さらに、株主や金融機関への説明責任を果たすうえでも予測は有効です。予測と実績が安定して近い企業は、経営の透明性と信頼性が高いと評価されやすくなります。
売上予測の具体的な計算方法

売上予測には、さまざまな計算手法があります。企業の事業特性やデータの蓄積状況、予測の目的に応じて最適な手法を選ぶことが重要です。単一の手法に頼るのではなく、複数のアプローチを組み合わせることで、より精度の高い予測が可能になります。
ここでは、代表的な売上予測の計算方法について説明します。
時系列分析で計算する方法
時系列分析は、過去の売上データの時間的推移を分析し、そのパターンから将来の売り上げを予測する手法です。
時系列分析の基本的な手順としては、まず過去12~36カ月程度の月次売上データを収集し、次に、データの傾向を視覚化するためにグラフ化して、明確な季節性やトレンドがあるかを確認します。
そして、季節調整を行い、基本的なトレンドを抽出した上で、将来の予測値を算出します。
時系列分析の主な要素 | 分析の観点 | 予測への影響 |
---|---|---|
トレンド要素 | 長期的な上昇・下降傾向 | 全体的な成長・衰退の予測 |
季節要素 | 年間で繰り返すパターン | 月次・四半期ごとの変動予測 |
循環要素 | 数年単位の景気循環など | 中期的な変動の予測 |
不規則要素 | 予測不能な突発的要因 | 分析から除外し影響を最小化 |
この手法の強みは、データのパターンを数学的に捉えることで客観的な予測が可能になる点です。一方で、市場環境の急激な変化や新製品の投入など、過去のパターンでは説明できない要因への対応が難しいという制約もあります。
移動平均法で計算する方法
移動平均法は、時系列分析の中でも比較的シンプルで導入しやすい手法です。この方法では、一定期間のデータの平均値を計算し、その変動を滑らかにすることで傾向を把握します。短期的な変動やノイズを除去して、全体的な傾向を捉えることができるのが特徴です。
移動平均法の計算式は単純移動平均の場合、(期間1の値 + 期間2の値 + …… + 期間nの値) ÷ n となります。
例えば3カ月移動平均であれば、1月から3月までの平均、2月から4月までの平均、というように計算していきます。この移動平均値の推移から、全体的なトレンドを把握し、将来の予測へつなげます。
移動平均法の種類 | 計算方法 | 適する状況 |
---|---|---|
単純移動平均 | 全期間の値を均等に平均 | 安定した環境での基本予測 |
加重移動平均 | 直近の期間に高い重みを付与 | 最近のトレンドをより反映 |
指数平滑法 | 過去の全データを活用し減衰率を適用 | 長期データがある場合 |
移動平均法の利点は計算が比較的容易で直感的に理解しやすい点ですが、急激な変化への対応が遅れやすいという欠点もあります。そのため、安定した市場環境における予測や、短期的な予測に適している手法と言えるでしょう。
商談状況から計算する方法
BtoB企業では、進行中の商談状況を分析することで精度の高い売上予測が可能になります。この方法は、営業パイプラインと呼ばれる商談の進捗管理をベースにしており、各商談の金額と成約確率から期待売り上げを算出するのです。
商談データを活用した予測では、まずすべての進行中商談をステージ別に整理します。次に、各ステージの過去の成約確率(例:提案書提出済み=30%、最終交渉中=70%など)を算出します。
そして、各商談の金額に成約確率を掛け合わせ、それらを合計することで期待売り上げを予測します。下記がその例です。
商談ステージ | 一般的な成約確率 | 計算例 |
---|---|---|
初回接触 | 10% | 1000万円×10%=100万円 |
ニーズ確認済み | 30% | 800万円×30%=240万円 |
提案提出済み | 50% | 600万円×50%=300万円 |
最終交渉中 | 80% | 500万円×80%=400万円 |
合計期待売上 | 1040万円 |
この手法の強みは、現在進行形の営業活動に基づいた予測ができる点です。市場環境の変化も商談の進捗状況に反映されるため、時系列分析では捉えきれない最新の状況を予測に取り込むことができます。
AIを活用して計算する方法
近年、人工知能(AI)技術の発展により、より高度な売上予測が可能になっています。AI予測の特徴は、複数のデータソースを組み合わせ、複雑なパターンを学習することで精度の高い予測を実現する点にあります。
AIを活用した売上予測では、まず、過去の売上データの時系列分析をベースとします。これに商談状況や受注確度などの営業データを組み合わせることで、より現実的な予測が可能になるのです。
さらに、市場トレンドや季節変動などの外部要因も考慮に入れます。AIはこれらの複数のデータソースから相関関係やパターンを学習し、統合された予測を行います。
AI予測の強みは、人間が見落としがちな複雑なパターンや相関関係を発見できる点です。一方で、導入時または導入後にデータ整備や専門知識が求められるといった課題もあります。
売上予測に必要なデータ

精度の高い売上予測には、適切なデータの収集と分析が不可欠です。予測の目的や手法によって必要なデータは異なりますが、社内データと外部データを組み合わせることで、より多角的な予測が可能になります。
ここでは、売上予測に必要な代表的なデータについて解説します。
過去の売上データ
売上予測の最も基本的な材料となるのが、過去の売上データです。時系列分析や移動平均法などの予測手法を適用するためには、一定期間の売上実績が必要になります。少なくとも2~3年分のデータがあると、季節変動や年次トレンドを適切に分析が可能です。
データの種類 | 活用方法 |
---|---|
月次売上データ | トレンド分析、季節変動の把握 |
製品・サービス別データ | 製品ライフサイクルに応じた予測 |
顧客セグメント別データ | ターゲット市場別の精緻な予測 |
地域別データ | 地域戦略に応じた販売予測 |
過去データを活用する際の注意点としては、異常値の扱いがあります。特別なキャンペーンや一時的な大型案件など、通常とは異なる要因による売上変動は、予測の際に調整が必要です。
市場トレンドと外部環境要因
売上は自社の営業活動だけでなく、市場全体の動向や外部環境によっても大きく影響を受けます。そのため、精度の高い予測を行うためには、これらの外部要因を適切に考慮することが重要です。
考慮すべき主な外部要因
分析枠組み | 具体的な要素 | 売上予測への影響 |
---|---|---|
政治的要因(P) | 規制環境、税制、貿易政策 | コンプライアンスコスト、市場アクセス |
経済的要因(E) | GDP成長率、金利、為替 | 顧客の購買力、原価変動 |
社会的要因(S) | 人口動態、価値観変化 | 消費者ニーズ、市場規模 |
技術的要因(T) | 技術革新、デジタル化 | 製品競争力、ビジネスモデル変化 |
外部環境分析には、PEST分析の枠組みが有効です。例えば、規制環境の変化、景気動向、消費者の価値観の変化、技術革新のトレンドなどを体系的に整理し、それぞれが自社の売上に与える影響を評価しましょう。
商談状況と受注見込み情報
BtoB企業では、現在進行中の商談状況を分析することが、短中期的な売上予測の精度向上に直接つながります。営業パイプラインに基づく予測は、日々の営業活動と売上予測を直接リンクさせる重要なアプローチです。
効果的なパイプライン管理の要素
要素 | 実施内容 |
---|---|
商談ステージの明確化 | 各ステージの定義と移行基準の統一 |
情報更新の頻度 | 週次での商談情報の更新 |
成約確率の分析 | 過去実績からの統計的分析 |
案件スコアリング | 決裁者関係や競合状況も考慮した評価 |
見込み案件の精度を高めるには、各ステージにおける成約確率の正確な把握が不可欠です。過去の類似案件の成約率を分析し、商談金額×成約確率で期待売上を算出しましょう。
また、単純なステージだけでなく、決裁者との関係性や競合状況なども考慮した「案件スコアリング」を行うことで、より精緻な予測が可能になります。
顧客データと購買行動分析
顧客データと購買行動の分析は、既存顧客からの売上予測において特に重要です。顧客の属性や過去の購買パターンを理解することで、将来の購買行動をより正確に予測することが可能になります。
購買行動分析の具体的手法としては、RFM分析(Recency:最終購買日、Frequency:購買頻度、Monetary:購買金額)が広く活用されています。顧客をこれら3つの指標でセグメント化し、それぞれの顧客グループの将来的な売上貢献度を予測するのです。
売上予測の手順とツール

売上予測を効率的かつ効果的に進めるには、適切なツールを選び活用することが重要です。企業規模や業種、予測の目的、利用可能なデータに応じて、最適なツールは異なります。
ここでは、代表的な売上予測ツールとその活用方法について解説します。
Excelを活用した予測
多くの企業で最も身近な予測ツールはExcelです。専門的なシステムを導入する前段階や、中小規模の企業では、Excelを活用した予測手法が効果的です。Excelの強みは、特別なシステム投資なしに導入でき、柔軟にカスタマイズできる点にあります。
Excelでの予測手法 | 主な関数・機能 | 活用シーン |
---|---|---|
線形予測 | TREND、FORECAST | 安定成長している商品の売上予測 |
移動平均 | AVERAGE、データ分析ツール | 季節変動のある売り上げの傾向把握 |
回帰分析 | データ分析ツールの回帰分析 | 複数要因の影響を考慮した予測 |
予測シートの作成手順としては、まず過去の売上データを月次や四半期ごとに整理します。次に、季節変動やトレンドを可視化するためのグラフを作成し、パターンを確認します。その上で、適切な予測関数を選択・適用し、将来の予測値を算出しましょう。
SFA(営業支援システム)を活用した予測
営業活動を効率化し、商談管理を一元化するSFA(Sales Force Automation)は、特にBtoB企業における売上予測の強力なツールとなります。SFAの導入により、リアルタイムの商談情報に基づいた精度の高い予測が可能になります。
SFAの基本機能と予測への活用方法としては、まず商談管理機能があります。各商談の金額、進捗状況、成約確率などを一元管理し、これらを集計することで売上見込みを算出するのです。
効果的なSFA活用のポイントは、システム導入後の運用プロセスの確立にあります。特に重要なのは、商談情報の更新頻度と精度を担保する仕組みづくりです。
例えば、週次の商談レビューミーティングを制度化し、その場でSFAの情報更新を行うといった運用が効果的です。
SFAについては以下の記事で詳しく解説しているのでご参照ください。
売上予測ツールのAI機能
近年、AIの発展に伴い、より高度な予測機能を備えた専門ツールが増えています。これらのAIツールは、多様なデータソースを統合し、複雑なパターンを学習することで、従来の方法では実現できなかった精度の高い予測を可能にします。
売上予測に活用できるAIツールは、その特性や適用領域によっていくつかのタイプに分類できます。
まず、小売・流通業向けの需要予測特化型AIがあります。これらは、POSデータや在庫データと連携し、天候やイベントなどの外部要因も考慮した精緻な需要予測が可能です。
営業予測特化型AIは、SFAデータと連携して売上予測を行います。商談情報を分析し、案件ごとの成約確率を自動判定したり、営業担当者のバイアスを排除した客観的な予測を提供したりする機能が特徴です。
AIツールの導入を検討する際のポイントは、まず自社の予測ニーズを明確にし、それに適したツールを選ぶことが重要です。また、既存システムとの連携性や、データの質と量を確保できるかも重要な判断基準となります。
売上予測の精度を高めるポイント

売上予測は一度構築して終わりではなく、継続的に精度を高めることが重要です。予測と実績の乖離を分析し、予測プロセスを改善していくことで、より信頼性の高い経営判断が可能になります。
ここでは、売上予測の精度を高めるための具体的なポイントについて解説します。
データの精度と鮮度を維持する
売上予測の精度は、入力するデータの質に大きく依存します。どれほど精度の高いモデルを構築しても、基となるデータに問題があれば正確な予測はできません。
データ品質管理の方法 | 内容 |
---|---|
入力プロセスの標準化 | SFAや受注データの入力ルール統一 |
自動チェック機能の導入 | 異常値や矛盾の自動検出 |
適切な更新頻度の設定 | 予測サイクルに合わせた更新タイミング |
データの更新頻度についても、予測の目的に応じて適切に設定することが重要です。短期的な予測であれば週次や日次での更新が望ましく、中長期的な予測であれば月次での更新が一般的です。
予測プロセスを全社で統一する
売上予測の精度向上には、予測プロセスの標準化と全社的な統一が不可欠です。部門ごとに異なる手法や基準を用いると、全社の予測を統合する際に整合性が取れなくなります。
標準化の重要ポイント | 具体的な取り組み |
---|---|
目的と範囲の明確化 | 短期/中長期など目的に応じた手法選択 |
基準定義の統一 | 計上タイミングや為替レートなどの扱いを統一 |
プロセスの文書化 | 予測手順と担当者を明確にしたマニュアル整備 |
部門間連携の具体的方法としては、定期的な予測会議の開催が効果的です。営業、マーケティング、生産、財務など、関連部門が一堂に会し、それぞれの視点から予測の妥当性を検討しましょう。
予測と実績を定期的に比較する
売上予測の精度を継続的に向上させるためには、予測と実績を定期的に比較し、その差異から学ぶことが重要です。比較分析を行うことで、予測モデルの改善点を明確にできます。
差異分析の方法 | 内容 |
---|---|
差異の定量化 | 予測と実績の絶対額・比率の算出 |
要因の分類 | 市場・競合・自社・モデル要因などに分類 |
コントロール可否の判断 | 改善可能な要因と外部要因の区別 |
PDCAサイクルとして、四半期ごとに予測プロセスをレビューし、差異分析で特定した改善点を予測モデルに反映することで、継続的な精度向上が期待できます。
外部要因の影響を適切に反映する
売上予測の精度向上には、自社のコントロール下にある内部要因だけでなく、外部環境の変化が売り上げに与える影響を適切に予測モデルに反映することが重要です。
外部要因分析の手順 | 具体的な方法 |
---|---|
要因の体系的な特定 | PEST分析フレームワークの活用 |
影響度の定量評価 | 過去データでの相関関係分析 |
シナリオ分析 | 複数の将来見通しでの予測 |
影響度の評価方法としては、各要因の売り上げへの影響を数値化し、将来の外部要因の見通しを予測モデルに組み込みましょう。不確実性の高い状況では、複数のシナリオを用いた予測が効果的です。
まとめ
本記事では、売上予測の基本から具体的な計算方法、必要なデータ、活用ツールと精度向上のポイントまでを解説しました。適切な売上予測は、経営判断の質を高める重要な基盤となります。
売上予測を成功させるには、予測と目標の違いを理解し、事業特性に合った計算手法を選択することが重要です。また、データの精度と鮮度を維持し、予測プロセスを全社で統一することで一貫性のある予測が可能になります。
本記事のポイントを参考に、自社に最適な売上予測の仕組みを構築し、確かな経営判断につなげていただければ幸いです。

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ライター
営業DX Handbook 編集部