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ARRとは?計算方法や重要性、伸ばすための方法を解説
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経営状態の把握や自社の収益・将来性の予測は、企業にとって欠かせない事項です。これらを評価するための重要な指標の一つとして、「ARR」があります。
ARRは、特にサブスクリプションサービスを展開するSaaSビジネスにおいて、重要な役割を果たします。
本記事では、ARRの基本概念や類似する指標との違い、ARRを伸ばす方法について詳しく解説します。
ARRとは
ARRとは「Annual Recurring Revenue」の略であり、日本語では「年間経常収益」や「年間定期利益」と訳されます。すなわち、毎年決まって得られる利益や売り上げを意味します。
ARRには一時的な売り上げや初期費用を含まず、主にサブスクリプションサービス(月額・年額制)から得られる年間売上が該当します。SaaSビジネスにおける企業の健全性や成長性を測るうえで、重要な指標とされています。
MRRとの違い
ARRと同様にSaaSビジネスで重要視される指標として、「MRR」があります。MRRとは「Monthly Recurring Revenue」の略称であり、日本語では「月間経常収益」や「月間定期収益」という意味を持ち、毎月決まって得ることができる利益や売り上げを指します。
ARRとMRRの大きな違いは、対象となる期間です。MRRは月単位の収益を表し、ビジネスの収益の安定性や予測可能性を把握するうえで有用です。
ARRは年単位の収益を表すため、より長期的な視点でビジネスの健全性や成長を評価する際に役立ちます。
その他似た指標との違い
ARRやMRR以外にも、ビジネスにおける重要な指標はさまざまあります。
ここではARRに似た指標として、「NRR」「TV」「CAC」の3つの指標をご紹介します。
NRR
NRRとは「Net Revenue Retention」もしくは「Net Retention Rate」の略で、「売上維持率」または「売上継続率」と訳されます。
この指標は既存顧客の売り上げの維持率を示すもので、新規顧客からの収益は含まれません。具体的には、NRRが100%以上の場合、「既存顧客に対するアップセルやクロスセルの施策が好調である」といった判断ができ、企業の将来の成長性を予測するのに役立ちます。
LTV
LTVとは「Life Time Value」の略で、「顧客生涯価値」を意味します。この指標は、顧客1人(1社)あたりが自社を利用開始してから終了するまでの期間に、得られる利益の総額を表します。
LTVの数値は、特定の顧客との取引が継続するほど高くなります。アップセルやクロスセル、リピートを含めた顧客がもたらす総額を示し、企業の営業活動やマーケティング活動において重要な指標とされています。
CAC
CACとは「Customer Acquisition Cost」の略で、「顧客獲得費用」を意味します。新規で顧客を開拓する際にかかる費用を指し、例えば広告費や営業人件費などが該当します。
CACは大きく3つに分類され、それぞれ顧客の獲得経路ごとに分けて考えます。
- Organic CAC:紹介や口コミ、検索からの流入など
- Paid CAC:CMやインターネット広告、イベントの開催など
- Blended CAC:Organic CACとPaid CACを合わせた顧客獲得費用のこと
CACが、上述したLTVを継続的に上回る状況が発生している場合、その事業モデルは長期的な維持が難しい可能性があると判断できます。このような状況では、コスト削減や収益向上の手段の検討が求められるでしょう。
ARRの計算方法
ARRの計算方法はシンプルで、「MRR ✕ 12(カ月)」の計算式で求められます。
- MRRの基本的な求め方:「月額利用料×ユーザー数」
- 契約期間が複数ある場合のMRRの求め方(年契約・月契約の2種類の場合):(年額利用料÷12×ユーザー数)+(月額利用料×ユーザー数)
この他にも、新規獲得や既存顧客の契約のアップグレード・ダウングレード・解約などの要素を含めた算出方法もあります。
例えば、あるSaaS製品において、「月額 500円、ユーザー数 100人」の場合、ARRの求め方は以下の通りです。
500(円/月)×100(人)=50,000(円)
50,000(円)×12(カ月)=600,000(円)
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このSaaS製品のARRは、600,000円と算出できます。ARRを計算する際には、定期的な収益の積み重ねや変動を考慮することで、ビジネスの安定性や成長をより的確に評価することが可能です。
ARRの重要性
年単位での定期収益を把握するのに役立つARRですが、なぜこの指標が重要なのでしょうか。また、ARRをより効果的に使うためにはどうすれば良いのでしょうか。
ここでは、ARRの重要性について、下記の3点から詳しく解説します。
- KPIや目標設定に活用できる
- 投資家の判断材料になる
- ビジネスの成長率・将来性を予測できる
KPIや目標設定に活用できる
ビジネスで成果を出すためには、目標達成までの途中経過を、KPI(重要業績評価指標)を通して把握することが不可欠です。特に、サブスクリプションサービスを展開するSaaSビジネスでは、ARRやMRRは売り上げや利益に近い指標として活用できるため、多くの企業がARRをKPIに設定しています。
具体的には、年単位での契約をするビジネスモデルではARRを、月単位での契約をするビジネスモデルではMRRをKPIに設定すると良いでしょう。ただし、ARRは基準となる月によって変動するため、KPIとして設定する際には定期的な見直しを行い、企業の成長率を追跡する必要があります。
投資家の判断材料になる
ARRは安定した収益の増加を示す指標であり、投資家が投資先企業を検討する際の判断材料にもなります。
例えば、企業の時価総額を計算する際などに用いられ、特に資金調達時に重要視されるポイントとなります。投資家はARRの数字を参考に、企業の収益の安定性や将来の見通しを定量的に把握し、リスクを評価します。したがって、ARRの向上は企業にとってだけでなく、投資家との信頼関係の構築にも寄与するといえます。
ビジネスの成長率・将来性を予測できる
ARRは、ビジネスの成長率や将来の収益予測にも大きく貢献します。例えば、年間契約を行うSaaSビジネスの場合、契約に基づくARRは、年間売上見込や年間収支事業計画に直接反映されます。
年間収支事業計画内のARRを共有することで、組織全体の目標が統一化され、中長期的な企業の方向性や成長率を示すことができます。
ARRを伸ばすための方法
ARRの増加は、ビジネスの成長と安定性に直結します。ここでは、ARRを効果的に伸ばすための具体的な方法を3つ紹介します。
- 新規顧客の獲得
- 既存顧客からの収益増加
- 既存顧客の継続率向上(解約率低下)
新規顧客の獲得
ARRを増加させるためには、新規顧客の獲得が重要です。特にスタートアップやベンチャー企業にとって、新規顧客の取り込みがARRを拡大するうえで影響力のある要素といえるでしょう。
具体的には、顧客のニーズにあわせた広告戦略や販促活動、効果的なマーケティング戦略の展開が必要です。ただし、広告費や販促費用と収益のバランスを考慮し、コストが収益を上回らないように注意することが必要です。
既存顧客からの収益増加
既存顧客からの収益を増やすことは、新規顧客の獲得に比べてコストが低いため、ARRの効率的な増加が期待できます。これにより、収益増加にともなうLTVの最大化にもつながります。
具体的な方法としては、プランのアップグレードや追加オプションの購入を促す「アップセル」や「クロスセル」の提案があげられます。ただし、無理な提案は避け、顧客の信頼を損なわないよう慎重に施策を検討するようにしましょう。導入事例やベネフィットを適切に伝え、顧客に適した提案を行うことが大切です。
既存顧客の継続率向上(解約率低下)
新規顧客獲得が順調であっても、継続率が低ければARRの増加は期待できません。特にSaaSビジネスにおいてサブスクリプションサービスを提供する場合、ARRを伸ばすためには、新規顧客の獲得以上に「継続率の向上」が重要です。
サービスを継続的に利用してもらうためには、ユーザー満足度の向上が鍵を握ります。レビューの分析やUI/UX改善など、ユーザーがストレスなくサービスを利用できるような施策が有効です。UIはユーザーが直接触れる部分(画面上のボタン、メニュー、デザインなど)であり、UXはユーザーがそのシステムを使用する中で感じる全体的な経験や満足度を指します。UI/UX改善は、これらの要素を向上させるための取り組みを指します。
ARRを持続的に伸ばすためには、新規獲得のみに注力するのでなく、既存ユーザーの満足度向上にも焦点を当てることが重要といえます。
まとめ
ARRは毎年確実に得られる利益や売り上げを意味し、主にサブスクリプションサービスから得られる収益を指すため、SaaSビジネスでは企業の健全性や成長性を測るうえで重要な指標とされます。また、KPIや目標設定、投資家の判断材料としても活用できます。
ARRと似た指標として、「MRR」「NRR」「LTV」「CAC」などの指標があるため、それぞれの特性を理解したうえで活用しましょう。
ARRを効率的に伸ばすためには、新規顧客の獲得に加えて、既存顧客に対するアップセルやクロスセルの提案が有効です。また、既存顧客の継続率向上も不可欠であり、そのためには顧客満足度の向上が求められます。
これらの戦略を展開する際には、データ駆動型のアプローチが効果的です。顧客の行動データやフィードバックを分析し、個々の顧客に合わせたパーソナライズされた提案を行うことで、効果的な成果が期待できます。
営業DXサービス「Sansan」は、名刺交換やメールのやりとりなど顧客との接点から得られる情報を基に、顧客データベースを構築できます。また、企業情報/役職者情報のデータベース、組織ツリー、接点マップなどの機能も搭載しているため、新規顧客開拓、既存顧客深耕どちらでも活用いただけます。ARR向上の基盤作りの一環として、Sansanをぜひご検討ください。
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ライター
営業DX Handbook 編集部