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「法人番号はビジネスを加速させる」注力すべき業界のデータベースを構築した、Sansan事業部の挑戦
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第一回の記事で書いたとおり、今回から早速、各社が営業DXを推進していくときのヒントとなるような記事をお届けしていきます。
将来的には、当社のお客さまのインタビュー記事も掲載していく予定で、営業DX Handbookの名前のとおり、さまざまな企業にとってまさにハンドブックのようなメディアになることを目指しています。
最初にご紹介するのは、当社Sansanが行ってきた、「顧客情報のデジタル化」に該当する取り組みについての話です。
※ 2016年〜2017年の取り組み事例になりますので、現在一般的になっている顧客管理手法も取り上げています。ご了承ください。
柳生 大智(やぎゅう だいち)
Sansan株式会社
Sansan事業部 事業企画部 副部長
Salesforceを導入し、営業・マーケティングの分野で運用
当社は顧客情報の管理と、受注ファネルの管理のためにSalesforceを導入・運用しています。現在のSalesforce環境を導入したのは、2016年のことです。導入当初の目的は次の二つでした。
- テレビCMの放映で獲得した大量のリードを管理し、MAツールでナーチャリングしながら、優先度の高いリードをすばやくインサイドセールスに割り当ててアポイントを獲得すること
- 営業の商談管理を強化し、毎月の受注フォーキャストを立てること
これらを実現するため、以下の環境を作りました。
まずはすべてのリードを、当時使っていたMAツールMarketoに集約し、Salesforceのリードオブジェクトに相互同期。
アポイントを取得できる確度が高まったリードは、Salesforce側でインサイドセールスに割り当てを行い、アクションをします。
アポイントを取得できたリードは、Salesforceで取引先責任者に昇格させ、アポイントを案件として登録し、それらをひも付けました。
これらの仕組みは一定程度うまく機能し、受注金額の増加に寄与することができていましたが、課題も抱えていました。
ターゲットの選定が非効率で、どこに人員とコストを投資すべきか不明確だった
当社のSalesforce運用の課題が浮き彫りになったのは、導入後1年ほどたったころでした。
当時は大手企業へのアプローチを始めるため、営業組織を拡大しようとしていました。大手企業との取引は、流入してくるリードがあれば発生しますが、それを待っているだけでは非連続な拡大は難しいと判断し、当社側から戦略的に営業アプローチをかけていくことを決めたのです。
これまで、流入してくるリードだけに対処していた組織構成から一歩進化させ、従業員数が1000名以上の大手企業をターゲットにした専属のインサイドセールスと営業チームが作ることになりました。
問題はここで発生しました。例えば次のようなものです。
「企業単位ごとに専任のインサイドセールス担当を付けたいが、リードは企業単位にまとまっておらず、リードの会社名の部分一致で引っ掛かるものを割り当てるしかなかった」
これがどういうことなのか、Salesforceに詳しい方ならお分かりいただけるかと思いますが、簡単にSalesforceの仕様の説明をさせていただきます。
Saelsforceでは、企業データとリードデータは、それぞれSalesforce上の異なるオブジェクトに格納されます。格納されるオブジェクトは、企業データは「取引先」、リードデータは「リード」です。また、リードが所属する会社が特定されている場合は、リードのひもづく取引先を指定することができます。するとリードオブジェクトに格納されていたデータは、「取引先責任者」オブジェクトに昇格されます。言葉がわかりにくいのですが、取引先責任者とは、リードのうち、取引先が特定されたリードデータを指します。
企業データとリードデータが適切に管理されている状態とは、
・「取引先」に企業データがMECEに登録されている
・「取引先」にひも付くリードデータがすべて「取引先責任者」に登録されている
ですが、当時は後者が特にできていませんでした。
なぜなら、リードを一つひとつ確認し、そのリードが所属する企業かを特定。その後、取引先責任者に移行していくオペレーションはそもそもメリットが少ない作業であり、作業自体も非効率だからです。電話してアポを取れればいいのであれば、取引先責任者にする必要は一切ないように感じていました。そのため、当時は商談を獲得できたリードだけを「取引先責任者」に昇格させていました。
これが問題なのは、結果としてインサイドセールスの業務効率を高められないことです。会社単位でインサイドセールスに丸ごとリードを割り当てたいときに、本来は企業データである取引先を担当者に割り当て、取引先にひもづく取引先責任者を一括で割り当てるのが理想です。しかし、この時はリードの「会社名の部分一致」で割り当てを行うくらいしか方法がないため、例えば超大手企業の親会社とグループ会社のリードが入り混じることになり、インサイドセールスの業務効率が上がらない、という事態が発生してしまっていました。
さらにこんな問題もありました。
「大手企業を、親和性が高い業界から攻めていきたいが、同じ企業と思われるデータが複数件存在し、単純集計では正確なターゲット企業選定が難しい」
大手企業は、会社名変更がたびたびあります。Salesforceに古い会社名で登録されている場合、最新の会社名ではリードを割り当てることができず、せっかくの人脈にインサイドセールスが気づけないケースがありました。
リードが企業単位で整理されていないために、得意な業界を定量的に特定できず、営業組織を何名程度、どんな業界に配置すればよいかが判断できない状態だったのです。
これでは、「専任の営業組織を作っていくぞ!」と意気込んでも、当社がそれまでに活動してきた成果である顧客情報を十分に活用できている状態ではないので、成果が最大化しないことは明白でした。
だからこそ、この顧客情報の管理のあり方を抜本的に改善することにしました。
課題解決のヒントは「法人番号」だった。法人単位にデータベースを集約し、注力業界を可視化
これらの課題を解決するために着目したのが、国税庁が法人や一部の団体に対して指定する「法人番号」でした。
法人番号とは株式会社などの法人等が持つ13桁の番号を指します。国税庁の法人番号公表サイトで検索でき、利用範囲の制約がなく、誰でも自由に利用できます。
法人番号を使ったデータ管理は、今でこそ一般的ですが、運用開始は2015年10月。当社がこれに取り組んだ2017年当時は比較的新しい取り組みだったのではないかと思います。
法人番号は法人に対して固有に採番される番号なので、もし当社が持つリードや企業のデータすべてに何らかの方法で法人番号を採番できれば、企業がMECEに(漏れがなく、重複もなく)登録・管理されている状態や、リードが企業に正しくひも付く状態を作ることができると思いました。
早速、法人番号公表サイトで企業の法人番号を調べてひも付けることを開始。ところが、あまりにもデータ件数が多く、手作業で行うには限界がありました。
というのも、当時企業データは2万件弱、リードデータは23万件弱存在しました。これらの作業ができるチームはたった3人、一日でせいぜい500件もできれば良い方だったのです。
Sansan Data Hubが課題解決の救世主に
このとき、うってつけだったのが、プロトタイプとして社内限定リリースされたばかりのSansan Data Hub (当時の名称はSansan Customer Intelligence)でした。
Sansan Data Hubは、Sansanの名刺データをSalesforce に連携する、Sansanのオプション機能の一つとして開発されていましたが、実はもう一つの機能として、連携したSalesforce等の企業データ、リードデータに法人番号を採番し、企業規模や業種を付与できたのです。
そこで、Sansan Data Hub のプロトタイプを使って、この課題を解決することにしました。
連携図をご紹介します。
水色で図示しているのが、当時のSalesforce環境のオブジェクト構成です。
Sansan Data Hubから、法人番号を書き出す対象とするのが、「取引先」と呼ばれる企業のデータベースと、「リード」と呼ばれる人物のデータベースです。その大元になっているMarketoのリード(紫色で図示)に法人番号を書き出して、どの人物データがどの会社データのものであるかを特定する作業を行いました。
このように、データに法人番号を付与したことによって、重複していた企業のデータを集約することができました。結果、獲得済みだった23万件のうち16万件のリード情報が、どの取引先にひも付くのかが特定され、取引先責任者へ昇格できたことで、当初の課題を解決できたのです。
データ件数は3倍、商談数は64%アップを実現
この取り組みにより、「当社プロダクトの売上が高い企業は、どの業界に属しているのか」「その業界には、何社企業があるのか」が分かるようになりました。
「この業界は受注率が高いから、専任の営業組織を作ろう」「注力して攻めよう」という判断ができるようになったことが何よりの成果です。それまで、営業の経験と勘に頼るしかなかった判断が、定量的に実行できた瞬間でした。
法人番号の付与により、法人単位に集約されたデータ件数は、取り組み前の3倍に。商談数にも良い影響があり、取り組み後の半年間で獲得できた商談数は、その前の半年間と比べて64%アップするという成果にもつながりました。
注力業界として選定した業界に向けて、営業とマーケティングがタッグを組んでセミナーを開催するなど、新しい動きもスタートしました。
このように私たちSansan事業部では企業単位でデータを集約しましたが、お客さまの中には拠点単位で集約したという企業もあり、ぜひその苦労や失敗、成果をインタビューしていきたいと思っています。
※Salesforce は Salesforce, Inc. の商標であり、許可のもとで使用しています。
編集部からのまとめ
Sansan事業部の取り組み事例、いかがでしたか? 顧客情報を、法人番号を使って集約したことで、営業戦略の判断がデータに基づいて実行できるようになった流れがお分かりいただけたのではないでしょうか。
今後も、他社へのインタビューや営業企画イベントのレポートなど、記事をアップしていきますので、どうぞご期待ください。
ライター
営業DX Handbook 編集部