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目的は「属人性の排除」。Sansanが実践するエンタープライズ営業でのスコアリングとは
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今回の記事では、Sansanが実践している「スコアリング」についてお伝えします。
スコアリングとは、マーケティングや営業活動において、企業やリード属性や行動などのデータを基にサービスへの関心度を数値化することで、商談や受注につながりやすい顧客をピックアップする手法です。
スコアリングは、アプローチの優先順位を定量的に決められるメリットがある一方で、実際に運用してみると難しい点が多いのも事実です。
Sansanでは、一定規模以上の企業を対象としたエンタープライズ営業で、スコアリングを活用しています。
もちろん、アプローチの優先順位を付ける目的もありますが、当社では「属人性の排除」を大きな目的としてきました。
どのような手法でスコアリングを行い、どのような効果を感じているのか。導入の背景や、具体的な手法と効果、そして課題も含めて、詳しくご紹介します。
稲毛 勇人(いなげ ゆうと)
Sansan株式会社
Sansan事業部 セールスディベロップメント部 部長
「歴代の猛者」が言っていることは本当に正しいのか?
私は2021年、エンタープライズ営業部のフィールドセールス部門のマネジャーとしてSansanに入社しました。
部内の社員から仕事のコツを教えてもらいましたが、その時共有されたのは「こういう企業には受注してもらえそう」「この企業はうちの商材とは親和性がなさそう」といった感覚知ベースの知見が中心でした。
最初はその通りにやってみたものの、なかなか実績が上がらず、逆に「そこは無理だろう」と言われていた業種の企業から受注できたこともありました。
そんなこともあって、「歴代の猛者が言っていることは必ずしも正しくないのでは?」と思うようになったのです。
その後、インサイドセールス部門のマネジャーを兼務するようになり、エンタープライズ領域の攻略をあらためて俯瞰的に見つめ直すことになりました。
一般的な営業フローでは、インサイドセールスがアプローチ企業を設定してアポイント獲得までを担い、その案件をフィールドセールスに引き継ぎます。
これに対してエンタープライズ営業においては、インサイドセールスよりもフィールドセールスの方が企業アカウントに対する解像度が高いため、フィールドセールスの感覚を頼りにアプローチ企業を設定し、インサイドセールスがアプローチするということもあります。
当社も同じような状況だったのですが、こうしたフィールドセールス主導の営業は、機会損失が発生しやすくなるというデメリットがあります。
本当は提案を受けてもらえるチャンスがあったのに、フィールドセールスだけの主観的なフィルタリングでターゲティングから弾かれてしまった企業もあるはずなのです。
そこで、主観的なフィルタリングを理由とした機会損失をできるだけ少なくするために目をつけたのが、スコアリングでした。
スコアリングの運用とアプローチをうまく定型化できれば、フィールドセールスの感覚知に依存していた部分、要は属人性が排除できます。
こうした背景があって、2023年からスコアリングの活用を始めました。
「攻めやすい企業」を見つけるスコアリングからスタート
まずは営業生産性を高めることを第一に考え、下図のように「攻めやすい企業」のピックアップを目的としたスコアリングを行いました。
ターゲットとするリスト内の企業に対し、以下の3つの軸において一定水準より高ければ加点するという方式です。
- ターゲット企業に所属する保有リード数
- ターゲット企業に所属する営業系部門の保有リード数
(当社の場合、営業部門のリードからの受注確率が高いため、意図的に重み付けをしています。) - 過去アプローチ数に対して、どれほど商談化&案件化しているかの割合
スコアリングでよく使われるリードの興味関心に関わる行動データ、例えば「メール開封」や「ホームページの閲覧」などは評価に入れていません。
エンタープライズ営業の場合、個人の検討で案件が動くことはかなり限られてくるためです。
なお、この方式をとるには、保有しているリード数を企業単位で正しくカウントできることが必須要件です。法人格の書き方の違いで同じ企業なのに別企業と識別されてしまったり、重複リードによってダブルカウントされてしまったり、算出するのが難しいと感じられている方も多いかもしれませんが、当社の場合は、法人番号で企業とリードを名寄せすることで、この方式を実現しています。
以下の記事にてデータベースの構築方法を紹介していますので、よろしければご参考ください。
しかし、実際にアプローチを始めてみると、なかなかうまくいきませんでした。
例えば、当社の商材との親和性が低い「BtoC」企業なのに、リード数が多いことが要因となって高いスコアを獲得していたり、あるいは、当社の商材と業種的にはマッチしているけれど、その企業が直近の決算では減益で、IT予算を確保できるような状況ではなかったり。
つまり「狙うべき企業」であるかどうかが加味されていなかったのです。
「攻めやすい企業」×「狙うべき企業」のスコアリングにバージョンアップ
その反省を踏まえ、下図のように「狙うべき企業」も組み合わせたスコアリングにバージョンアップしました。
元々あった攻めやすい企業のデータに加えて、以下の3つの軸も含めてスコアを算出する方式です。
- Sansanと親和性が高い業種・業態であるかどうか
- 直近の決算で利益はどう変わっているか
- Sansanと連携できるITツールが導入されているかどうか
これらについて、あらかじめ決めておいたルールにのっとって点数化します。例えば「BtoB」の企業には+10、増益企業には+5、対象ITツールを導入している企業には+5といった感じです。
こうして攻めやすい企業のスコアと狙うべき企業のスコアをそれぞれ算出し、合算したものを最終的なスコアとして注力企業の評価に用います。どのような項目を設けるべきか、どのように点数を配分するかについては、時間をかけてチューニングしました。
チューニングする際のポイントは、最終的なスコアの中身を「攻めやすい企業」と「狙うべき企業」で分けて可視化することです。
最終的なスコアが攻めやすい企業のスコアによって引き上げられ過ぎてしまうと、Ver.1の時のように失敗してしまいますし、逆に狙うべき企業のスコアが最終スコアを引っ張っていて、攻めやすい企業のスコアが低い場合、初回アプローチの難易度は上がります。
実際に試してPDCAを回しながら、配分や項目を調整しました。
スコアリング導入で見えてきた「効果」と「課題」
スコアリングを導入してから1年ほど経ちました。その効果を定量的に示すのは難しいですが、恣意性が強かった領域に客観的な視点を持ち込むことができた意義は大きいと考えています。
これまでは取りこぼしていたリードもインサイドセールスの網にかかるようになり、機会損失がなくなってきていますし、大目的であった「属人性の排除」も進んでいます。
フィールドセールスの感覚知に依存していると、「その人にしかできない」ことが出てきてしまいます。これは人材の流動性確保の面でもマイナスに作用します。
今は、定量的に高く評価されたリードがインサイドセールスからパスされる流れができているおかげで、経験に依存せず受注を獲得できる体制が出来上がっています。そういう意味で、スコアリングが「道しるべ」になっていると思います。
一方で、長くフィールドセールスに携わってきた人が持つ「嗅覚」には価値があるということも痛感しました。上記のスコアリング的には数値が低いのに、ベテランの営業が「ここは狙うべきだよ」と指摘した企業で、実際に受注まで至ったケースもあったからです。
つまり、現状を完全にデータドリブンにしてしまうと、これまで「嗅覚」で拾えていたものが拾えなくなる可能性もあるということ。データと感覚をどうやって融合させていくかは今後の課題の一つです。
ただし、理想を言えば、そうした「嗅覚」も数値化したいと思っています。そうでないと、人に伝えられないですし、自分以外の誰かを動かすこともできません。やはり、属人化はできるだけ排除したいのです。「嗅覚」の実態はまだまだ究明できていませんが、うまく数値化する方法がないか検討を続けたいと思います。
編集部からのまとめ
Sansan事業部の取り組み事例、いかがでしたか? 少しでも活用いただけるポイントがあれば幸いです。
今後も、他社へのインタビューや営業企画イベントのレポートなど、記事をアップしていきますので、どうぞご期待ください。
また、当社では、日本における営業DXの未来を切り拓くための議論を行う「営業DX Meetup」というイベントも開催しております。ご興味のある方はぜひお問い合わせいただければ幸いです。
ライター
営業DX Handbook 編集部