「新生活様式」でどう変わる?営業手法のニューノーマルとは
~ 成長する組織であるために、いま考えるべきこと ~

イベントレポート

2020年6月29日、いま求められる新しい営業手法についてのセミナーを、Live配信で開催しました。

政府より発表された「新しい生活様式」では、リモートワークやローテーション勤務、時差出勤、オンライン会議などが推奨されています。新生活様式にシフトしていく中で、多くの企業が感染対策を考慮しながら、事業活動を継続する道を模索しています。
特に営業部門においては、接触を前提としない営業手法への転換が強く求められています。対面営業が制限され、オンラインでの商談が中心となる中、どのように商談や売り上げの確保を行い、どのように事業成長に向けた営業改革を推進すべきなのでしょうか。

本セミナーでは、セールスフォース・ドットコム と Sansanの2社が、自社での取り組みを交えながら、生産性向上のためのポイントや、顧客との関係構築のありかたをお伝えしました。
ニューノーマル時代を
生き抜くための、
営業組織のオンラインシフトの鍵とは
− Sansan株式会社 Sansan事業部
MiddleBusiness営業部 部長 兼
SalesDevelopment部 部長 山本 紘治
インサイドセールスを支える
一貫性のある業務プロセスとシステム


最初に、コロナウイルスの流行により日本経済の「オンラインシフト」が進んでおり、オンライン活用による接触を前提としない営業手法への変換が求められていると、山本は指摘します。

では、どのようにオンラインにシフトした営業改革を行えばよいのでしょうか。訪問営業や展示会、オフラインセミナーなどが制限される中、事業成長に向けて2つの方向性が考えられます。
上記、取り組みの中でも、特に、オンラインでの営業・販売手法の構築が不可欠であり、そのためには、インサイドセールスの仕組みづくりが鍵になると、山本は話しました。

次に、Sansanにおけるインサイドセールスへの取り組みについて、山本は紹介しました。Sansanでは、2011年からインサイドセールスを実施。現在では、独立部門として約50名のメンバーを抱えています。
インサイドセールスは、見込み顧客の創出し、育成する、また、既存顧客を育成し、契約更新に繋げるなどの役割を担っています。
業務範囲は大きく分けて2つです。

①初期接点=見込み顧客へのアプローチ~商談獲得
②ナーチャリング=顧客への情報提供・ヒアリング・温度感の見極め

具体的なアクションとしては、マーケティング部門が主体となって獲得したリードのうち、どれが受注につながるかを精査し、アポイントメントの設定、商談獲得を行います。また、商談終了後の顧客に対する情報提供や既存顧客に対するアップセルや、解約阻止のアプローチなども行っています。
インサイドセールスが成果を出すには、一貫した業務プロセスとシステムの構築が不可欠だと、山本は強調。インサイドセールス部門、マーケティング部門、フィールドセールス部門、カスタマーサクセス部門がSansanやSalesforce、MA(マーケティング・オートメーション)ツールなどのシステムによって連携し、情報を共有、活用することで、成果が生まれると、山本は話しました。

続いて、コロナ禍での取り組みについて、山本は紹介。Sansanでは緊急事態宣言前の3月時点で、商談を原則オンラインに切り替えました。オフラインイベントの中止などにより、新規リードの獲得が減少したものの、「お客様がいま何に困っているのか?」「Sansanが課題解決にどう役立つのか?」にフォーカスしたコミュニケーションを実施したところ、コロナ前と変らない商談件数を獲得。リモートワークを実施しながら、案件化数は前四半期を上回り、通期記録を更新しました。
一方で、新たな課題も浮上しました。オンライン商談では名刺交換ができないため、対面以外の同席者の細かい情報を把握することが困難でした。オンライン上での接点が増加する中、オフラインだけでなく、オンライン上で接点を持った顧客も、漏れなく管理していくことが重要となります。

そこで、Sansanでは、オンライン名刺機能の開発を急ぎ、2020年6月にリリース。オンライン商談でも名刺交換を行うことで、スムーズなアイスブレイク、商談相手の所属部署や肩書きの把握、名刺データ取得による人脈の共有が可能となりました。現在、オンライン名刺は業種・業態・規模を問わず、様々な企業に導入されています。

「営業組織のオンラインシフトの鍵はインサイドセールスにあり、特に『初期接点づくり』と『ナーチャリング』が重要です。インサイドセールスの活動を支えるのは一貫性のある業務プロセスとシステムであり、接点の管理と情報の共有は不可欠です。『オンライン名刺』を活用いただくことで、今後、増加するオンライン上での接点を漏れなく管理することができます」と山本は締めくくりました。
Check
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オンライン上の出会いを蓄積し、ビジネスをさらに加速させる
「オンライン名刺」の使い方や活用シーンをご紹介します。
ニューノーマル時代を意識した
オンラインマネジメントと
オンライン営業手法
− 株式会社セールスフォース・
ドットコム インサイドセールス本部
エンタープライズ事業部 事業部長
畑中 雄太 氏
オンラインで成果を挙げるためのポイントとは?

セールスフォース・ドットコムは、顧客を中心に据えた様々な製品群を「Salesforce Customer 360」と名づけ、セールス、モバイル、マーケティング、アナリティクスなど幅広い機能を提供しています。
インサイドセールス部門の責任者として、これまで培ってきた手法の一部を、畑中氏は解説しました。

インサイドセールス部門は、マーケティング部門が行う施策によって獲得した見込み顧客とコミュニケーションを取り、顧客の生の声をマーケティング部門にフィードバックすることで、マーケティング施策のブラッシュアップを図っています。また、顧客のアポイントメントを取り、営業部門にパスしますが、その際、顧客のSalesforceに対する期待感や温度感を正確に伝達します。さらに、顧客から得たプロダクトへの反応や要望を製品担当部門に伝え、既存顧客の活用状況や拡大可能性をカスタマーサクセス部門に伝えます。
このように、インサイドセールス部門は社内の様々な部門のハブとして、顧客の声や反応、変化を捉え、各部門にフィードバックする役割を担っています。インサイドセールスの姿勢として大切なことは「深い共感と傾聴をもって、お客様に寄り添うことである」と、畑中氏は語りました。

次に、同社のオンラインでのマネジメントに関する取り組みについて、畑中氏は紹介しました。3月から、インサイドセールス部門は在宅勤務に完全移行。全員が在宅勤務の状況下でも、活動量は大幅に向上。活動量が向上することで、顧客接触回数の増加します。その結果、メンバーのパフォーマンス向上に繋がりました。
その背景の一つとして、Salesforceによる各メンバーの活動数、活動内容のリアルタイム把握を、畑中氏は挙げます。十分に活動できていないメンバーに対しても決して叱責することなく、その理由や抱える課題をしっかりヒアリングし、より力を発揮しやすい環境整備に努めています。
また、社内コミュニケーションツール「Chatter」を活用し、定期的にマネージャーが各メンバーに対して、明確なメッセージを伝えること、メンバー間で「ありがとう」「おめでとう」などの「お礼と賞賛」をできるだけ細かく頻繁に伝え合っている、と畑中氏は言います。実際に「お礼と賞賛」が多いグループほど、パフォーマンスが高いという統計データが出ており、オンラインマネジメントをより良くするヒントとなります。

続いて、オンラインセールのポイントについて、畑中氏は解説。オンラインセールスでは移動時間がなくなるため、1日に設定できる商談件数を増やすことができます。また、オンライン商談でのコミュニケーションTipsが蓄積されてきたので、受注率や受注単価も、オフラインと遜色のない数字を達成できるようになってきました。

畑中氏はオンラインセールスのポイントを「商談前、商談中、商談後、Sales Techの駆使」の4点だと語ります。


オンラインセールスのポイント①:商談前
商談の2営業日前に、お客様に事前確認の電話をかけ、深掘り質問と再確認のヒアリングを行い、商談の質の向上を図ります。事前準備をしっかりと行うことによって、商談時間の有効活用が可能となり、的を射た準備と提案、カスタマーサクセスに繋げることができます。

オンラインセールスのポイント②:商談中
商談中においては「合意形成」が最大のポイントになります。同社では、営業力を「お客様と合意し、商談を前に進める力である」と定義しています。そのために、以下の4点が重要です。
(1)次のステップへ5W1Hでしっかり進める
(2)議題に「次のステップを決める」という合意パートを明示しておく
(3)合意はYES(はい、それで行きましょう)という言葉で取る
(4)次のステップの2日前にリマインドする

オンラインセールスのポイント③:商談後
商談後に、商談内容をしっかりと営業支援システムに入力し、社内支援を得ることが重要となります。その際、「次のステップ」という項目に必ず日付を入れ「●●を合意する」と記載することが大切です。

オンラインセールスのポイント④:Sales Techの駆使
こちらが送付したメールが開封されたら通知されるなど、Sales Techの駆使し、お客様の動きをリアルタイムに知ることで、機会損失することなくコミュニケーションが可能となります。
また、一つの顧客管理システム上で、営業担当者が取得した情報とオンライン情報(Web閲覧情報やメールリアクション)を組み合わることで、より的を射たコミュニケーションを実現します。

「私たちは、上記、オンラインセールスの4つのポイントを実践し、Salesforce Customer 360の製品群を活用しながら、オンラインセールスで成果を挙げられるように、取り組んでいます」と畑中氏は語りました。
質疑応答&ディスカッション
「インサイドセールスが
“新しい営業のかたち”を生み出す」
当セッションでは、あらかじめ用意されたテーマと参加者から寄せられた質問に登壇者が答え、議論が交わされました。

ディスカッションテーマ①:
インサイドセールス組織、立ち上げのポイント

畑中氏「組織の各メンバーが、同じ方向を向いてビジネスを進めていくことが非常に重要です。そのためビジネスの目標――KPIをしっかりと定める必要があります。
KPIは、インサイドセール独自で設定するのではなく、隣接する部門――マーケティング、営業などが、何を求めているのかを相互にヒアリングし合い、求められるものを提供していくことが大切です。」
山本「売りたい商材と、営業の人員やマーケティング予算などのリソースによって戦略は変ってきます。
たとえば、新規開拓がメインで、マーケティングにあまり予算をかけないとなると、インサイドセールスの役割はアウトバウンドコール(企業から見込み顧客に電話をかけるアクション)が中心となります。一方、マーケティングの予算やそれなりのノウハウがある場合は、マーケティングによって問い合わせが来る状態が作られ、寄せられた問い合わせに対応していく形となります。
また、インサイドセールスが商談を獲得するまでを担当するのか、受注までを担当するかで、必要な人材も変わります。受注までを担当するなら、しっかりと営業を経験した人材が必要となるでしょう。話は変りますが、畑中さんはインサイドセールス部門のKPIをどこに置いていらっしゃいますか?」
畑中氏「インサイドセールスは自分が取った案件を営業にパスするのですが、その案件数と金額、また、そこから受注に至った金額を重要なKPIとして定めています。」 山本「Sansanでは営業活動を漠然と捉えるのではなく、初期接点から受注までの7段階に分けています。その中で、インサイドセールスのKPIを、獲得商談数、有効商談として案件化した件数、受注のキーポイントまで行ったときの金額に置いています。」
畑中氏「私が入社した14年前は、単純にアポイントメントの件数だけを見ていました。しかし会社の成長やマーケットの変化、テクノロジーの進歩によってKPIも変っていきます。そうした様々な変化に対応し、適切にKPIを変えていくことも重要です。」


ディスカッションテーマ②:
コロナ禍におけるメンバーマネジメント

畑中氏「メンバー同士が『ありがとう』と感謝を伝え合うということをやっています。そういうコミュニケーションを続けていると、メンバーのモチベーションが高まります。モチベーションの高い状態を維持しつつ、それをブレークスルーに繋げるための様々な施策を行っていますが、そのタスクリーダーにメンバーを積極的に抜擢するようにしています。マネージャーがやったほうが早いということもあるのですが、メンバーの成長を促すため、役割を担ってもらうということを意識的に行っています。」
山本「私が意識しているのは、きちんと言語化してメンバーに伝えること。同じ空間を共有していると、言葉にしなくても雰囲気で伝わるのですが、画面越しではそうはいきません。方針やフィードバック、振り返りなど、しっかり言葉にして伝えることがとても重要になります。国語力がすごく問われているなと(笑)」
畑中氏「ちょうど新入社員など新しいメンバーが入ってくる時期でもありましたね。弊社ではオンライントレーニングである「Trailhead」を自社メンバーに対しても行っているのですが、やはり緻密なコミュニケーションも欠かせません。
そこで、マネージャーとメンバーの1対1のコミュニケーションの時間を、週1回から週2回に増やしました。その時間では、アジェンダなしでざっくばらんに話してもらう。入社したばかりの方は不安なことも多いものです。そのため、マネージャーとしてではなく、先輩として不安を聞き出して、なるべくその場で解決するようにしています。」
山本「私も、コミュニケーションの機会を意図的に増やしました。朝会、夕会をルーティーン化したり、最初は雑談から入ったり。face to faceでやっていたときには、何気なく交していた会話が一切なくなるので、感情的なつながりや、互いの情報共有を意識してやっていました。
新入社員を含めた新たなメンバーには、グループのメンバーだけでなく、隣のグループや他部署の人と交流する機会を設けました。インサイドセールスの仕事だけを見ていると視野が狭まってしまうので、自分の仕事がフィールドセールスやマーケティングの部門と、どう繋がっているのかを理解してもらうための機会を作りました。」


質疑応答①:
新規顧客獲得をどのように行っていますか?
Tipsがあれば教えてください

畑中氏「弊社では、連絡先が分かっている新規のお客様に対してメールを送付し、その後、電話をするというような活動や、DMをお客様に郵送し、それを元に電話をかけ、アポイントメントを取るというような活動を行っています。」
山本「これまで以上にアポイントメントの取り方、商談の設定を丁寧に行うようにしています。新規ということは関係性の薄いお客様ですので、『何のためにどういう場で何をするのか?』『そのためのツールは何を使うのか?』などを明確にして、ストレスなく商談できるよう事前準備や事後の対応をしっかり行うことが一つ。
もう一つは、オンラインでは、お客様に強いニーズや興味がないと、商談を断られてしまうケースが発生しがちです。そこでインバウンド(顧客からの問い合わせに応える)という形にマーケティングのアプローチを変えるということも考えられます。『この時期になぜこの製品の導入を検討すべきなのか?』をしっかりコンテンツ化やメッセージ化して送付し、興味を持ったお客様の連絡を待つ。そして、連絡があったらまずメールを送り、それを後追いする形で電話をする。そのようにお客様に『いま話を聞くべきだな』と思っていただくようなアプローチが有効かなと思っています。」


質疑応答②:
ナーチャリングのポイントは?

畑中氏「お客様のいまの状況が、どういうステータスにあるのかということをCRMの情報を元にターゲティングし、ジャーニー(購入に至るプロセス)を描くということに、弊社のマーケティング部門は力を入れています。そうしたマーケティングプランを私たちインサイドセールスがしっかりキャッチした上で、お客様の温度感を高め、ジャーニーに乗せていくという活動を行っています。偶然アポイントメントが取れたとしても、そこから案件化できないものもあり、それでは営業工数を無駄に使ってしまいます。そのため、しっかりジャーニーに乗せることを意識しています。」

質疑応答③:
インサイドセールス部門を組織の中に設ける
メリットとは?

畑中氏「弊社は『The Model(ザ・モデル)』という形で、各部門の分業体制によるフレームワークでビジネスを進めています。このフレームワークによって、それぞれの部門のKPIを最大化できることが大きなメリットだと思っています。分業体制をとっているので、マーケティング部門は見込み顧客情報を最大限集め、インサイドセールス部門はその情報から作る案件数を最大化し、営業部門は契約件数を最大化することができます。このように、インサイドセールスも含めた各部門が連携することで、成果を最大化することができます。」
山本「日本の営業はこれまでアートであり、非言語的で属人的なものでした。また、それが良さや強みでもあったと思います。インサイドセールスはサイエンスの力で、再現性や定量性を追究し、従来の営業の暗黙知を形式知に変えることで、営業の生産性を上げていくアプローチなのだと思います。マーケティング部門と営業部門は会社の中で対立しがちですが、インサイドセールス部門はその間を上手に取り持ちながら、マーケティングや営業人員への投資をしっかりと成果に繋げていくハブとしての役割を果たします。営業におけるアートの部分がなくなるとは思っていません。そこにインサイドセールスによって、サイエンスの要素を上手に混ぜていくことで『新しい営業のかたち』が生み出されるのではないでしょうか。」

さいごに
このたびの新型コロナウイルスの感染拡大につきまして、罹患された方々には謹んでお見舞い申し上げますとともに、一日も早い事態の終息を強く願っております。

今後とも皆様のビジネスを後押しする情報提供の場を作れるよう努めて参ります。是非とも、皆様のご参加をお待ちしております。
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